保険適用の人工授精(AIH)……排卵のタイミングに合わせて子宮内に精子を注入します
人工授精(AIH)とは、排卵誘発剤を用いて卵胞の成長を助けながら、超音波検査で卵胞の直径を計測するとともに、ホルモン検査を行い排卵日を正確に予測し、最適なタイミングで運動性の高い精子をカテーテルで子宮内へと注入し妊娠を期待する治療法です。保険適用のAIHでは、密度勾配遠心法を用いて、自ら採取していただいた精液の中から、運動性の高い精子を選別・洗浄して用います。2022年4月から、この人工授精にも健康保険が適用されることになりました。
なお、本治療においては、hCG製剤を注射して、より確実に排卵を促します。
<卵胞の成長と排卵の様子>
女性は、自身が胎児だったときに卵巣内でつくった卵子を、原始卵胞(卵子を含んだ袋)のかたちでストックして生まれてきます。思春期になると、原始卵胞の一部が徐々に目覚めて排卵を目指して成長を開始し、初潮を迎えます。毎月左右いずれかの卵巣から、最終的に卵子1個が排卵されますが、月経中の卵巣には、当初、複数の小さな卵胞が観察されます。その中から、月経の8~10日目頃までに卵胞1個(主席卵胞)だけが選ばれて成長を続け、自然周期の場合、約14日間で成熟卵胞になり卵子を排出します。これが、排卵です。卵子は、卵管の先端部(卵管采/らんかんさい)にピックアップされて卵管内へと取り込まれ、精子との受精の機会を待ちます。卵子を排出したあとの卵胞は、黄体に変わり、妊娠が成立しなければ、約14日間で消失して白体になります。
AIH(保険治療)は、このような方に適した治療法です
- フーナーテストは不良だが、卵管の通過性が確認できている方
- 月経周期が不規則で排卵日予測の難しい方
フーナーテストの結果が不良で、卵管の通過性が確認されており、なおかつ奥様のご年齢が卵巣機能の低下までに余裕がある場合には、3~6回程度(期間はご年齢によって考慮)は試されてみても良いと考えます。
奥様の年齢が43歳以上になると、体外受精などのART(生殖補助医療)が保険適用外になるため、自費治療のARTを選択していただかなくてはならなくなります。自費治療のARTは費用が高額で難しいけれども、まだ妊娠をあきらめきれないという場合には、ARTに比べると妊娠率は低くなりますが、AIHを続けてみるという選択肢もあります。
中度~重度の男性不妊、卵管が両側とも閉塞しているなど、AIHでの妊娠が難しいケースもあります。
不妊治療の進め方……私たちは、こう考えます
自費治療はもちろん、保険治療であっても、AIHに治療回数や奥様の年齢の上限などはありません。ただし、AIHという治療法に期待できる有効回数という意味では、全国的にみても6回程度とされています。これは、AIHという方法で妊娠されたケースの9割が、6回目までに妊娠が成立されているためです。
奥様の年齢が35歳以上と比較的高めの場合は、3回くらい続けて妊娠しない時点で、少し早めに体外受精などのARTに進まれることをおすすめいたします。
通院スケジュール
あくまでも参考スケジュールとなります。個々の症状や月経周期の長さ等により異なります。
月経3~5日目
月経3~5日目頃に内診を受けていただいたうえで、排卵誘発剤(シクロフェニル製剤もしくはクロミフェン製剤)の服用を開始します。
月経10~12日目頃
2回目の診察は、月経10~12日目頃、超音波検査で卵胞の直径を測ります。卵胞の大きさだけでは正確な排卵のタイミングをつかむことは不可能なので、ホルモン値の検査(採血)を行い、最適なタイミングを計り、排卵を後押しする排卵促進剤(hCG製剤)を投与します。
排卵促進剤2日後にAIH実施
hCG製剤を注射した2日後に、精液を採取、ご提出いただきます。密度勾配遠心法を用いて、精液を洗浄、濃縮することで、運動性の高い精子だけを選別し、奥様の子宮の奥にカテーテルで注入し、AIHを実施します。
オーダーメイドAIH(自費治療)……AIHの精度を上げる当クリニックの取り組み
保険適用によるAIHは、ホルモン検査や内診の回数、使用できる薬剤、精子の洗浄・選別に用いることのできる機器などが、あらかじめ決められています。そこで、『おち夢クリニック名古屋』では、自然周期でも規則的な排卵のある方、できるだけ不必要な排卵誘発剤や排卵促進剤は使いたくない(月経周期を乱したくない)方などの強いご希望のある方、ZyMōtスパームセパレーターを用いて精子のDNAの損傷を抑えつつ、もっとも運動性の高い精子を選ぶことで少しでも妊娠率の高いAIH(院内比:従来法平均妊娠率7%、オーダーメイドAIH平均妊娠率14%)を受けたいとお望みの方などには、『オーダーメイドAIH』(自費治療)をご提案する場合がございます。どうぞ、お気軽にご相談ください。
■生検体と密度勾配遠心法、およびZyMōtで処理された精液の運動性の比較。
密度勾配遠心法(DGC)と比較し、抽出した精子の運動率が高く、特に乏精子症(Oligospermic Man)の方では、倍以上の成績が出ています。
■密度勾配遠心法、およびZyMōtによって処理された生検体と精液のDNA断片化の比較。
DNA断片化の割合から見ても、従来法(DGC)に対して、精子にダメージを与える可能性を軽減していることが分かります。
【オーダーメイドAIH(自費治療)は、このような方に適した治療法です】
- 精子のDNAを傷つけずに、運動性の高い精子を選びたい
- フーナーテストが不良で、卵管の通過性が確認できている方
- 細やかなホルモン検査や内診で、より正確にタイミングを診てほしい
- できる限り排卵誘発剤を使わず自然周期で試したい(ドラッグフリー周期)
- 月経周期を乱しにくい薬で排卵を誘発したい(レトロゾール周期)
- 排卵のトリガーは、hCG製剤ではなく、自身の黄体化ホルモン(LH)を放出させるスプレー(点鼻薬)で行いたい
- ARTに進む前に一般不妊治療で手を尽くしたい
保険治療と自費治療の違い
スタンダードな AIH(保険治療) |
オーダーメイド AIH(自費治療) |
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卵の育て方 | クロミフェン製剤などの排卵誘発剤を使用 | 月経周期に影響しにくい薬を使用。まったく使用しないドラッグフリーも可能 |
ホルモン検査&内診 | 回数制限あり | 必要と判断した場合には、回数制限なく実施可能 |
排卵のトリガー(促進剤) | hCG製剤(注射) | スプレー(点鼻薬) |
精子の洗浄・選別 | 密度勾配遠心法で運動性の高い精子を選別する | ZyMōtスパームセパレーターでもっとも運動性の高い精子を選別する |
通院スケジュール | 上記 | 基本的には保険治療と同じ |
費用 | 健康保険が適用される | 自費治療のためやや高め |